偏光をプローブとした硬X線天文学

我々は硬X線(エネルギーの高いX線)の偏光情報を取得できる検出器の開発を行っており、様々な飛翔体にそれを搭載して天体観測を行っています。この様な観測を通して、未だ確立されていない硬X線をプローブとした新しい高エネルギー天文学を創ろうとしています。そのため、我々は以下で紹介するプロジェクトに参加しています。

 

PHENEXプロジェクト


図1 検出器と気球搭載用ゴンドラ

PHENEX(Polarimetry for High ENErgy X rays)プロジェクトは山形大学、大阪大学、宇宙科学研究所、理化学研究所の研究者及び学生さんの共同プロジェクトです。その中で山形大学は検出器の開発、実験全体の統括、データ解析等を担当しています。このプロジェクトは気球搭載用硬X線偏光度検出器PHENEXの開発を通して、硬X線の偏光をプローブとした新しい観測を世界に先駆けて行うためのものです。実験自体は2003年にスタートし、2006年はカニ星雲のプレリミナリーな偏光観測を行うことができました。また2009年には検出器のスケールアップを行いました。現在は活動を停止していますが、また何かの機会を捉えて活動を再開したいと考えています。

 

 

 

 

GAPプロジェクト


図2 GAP検出器

GAP(GAmma-ray burst Polarimeter)プロジェクトは、金沢大学、山形大学、理化学研究所の研究者及び学生さんの共同プロジェクトです。その中で山形大学は回路の基礎設計や検出器をコントロールしたり検出器からのデータを収集するためのプログラムの開発を行っています。この検出器は2010年5月に打ち上げられたソーラーセール実証機IKAROS(金星探査衛星”あかつき”と相乗りする宇宙船)に取り付けられており、ガンマ線バーストという宇宙最大の高エネルギー現象からやってくる硬X線の偏光を測定するための検出器です。2012年現在で約30個のガンマ線バースト(GRB)を検出し、3個のGRBに関しては偏光を測定することができました。そしてその偏光を詳しく解析し、ガンマ線バーストがシンクロトロン放射で生じている可能性が強い事を明らかにしました。この研究によって、ガンマ線バーストの輻射メカニズムの一端が明らかになってきましした。詳しくは金沢大学のページをどうぞ。また2013年3月の天文月報に簡単な解説記事を書きました。

 

 

PolariSプロジェクト

PolariS(Polarimetry Satellite)プロジェクトは、大阪大学、山形大学、理化学研究所、金沢大学を始めとする数10の大学の研究者による共同プロジェクトです。このプロジェクトでは小型衛星に様々なタイプの偏光度検出器を搭載し、数keVから数10keVのエネルギー領域で100個近くの天体に対して偏光観測を行うものです。山形大学はPHENEXをベースとした硬X線偏光度検出器の開発や理論研究を行う事が期待されています。

 

LEAPプロジェクト

LEAP(Large Effective Area Polarimeter for gamma-ray bursts)は、国際宇宙ステーションに大面積のガンマ線バースト偏光度検出器を搭載し、100個近いガンマ線バーストに対してその偏光度を測定するという野心的な計画です。GAPでは3つのガンマ線バーストの偏光度しか測れなかったために、ガンマ線バーストの輻射メカニズムには至りませんでした。しかし、LEAPではガンマ線バーストの輻射メカニズムが明らかになると期待されます。この研究は山形大学とNASA/MSFCを中心に進められており、金沢大学、理化学研究所、大阪大学、東京工業大学、広島大学、高エネルギー物理学研究所、東北大学の研究者も参加しています。現在Bread Board Model(BBM)というテスト的な検出器を製作し、実際の検出器を製作する上での問題点を探っています。またその治験を生かして、エンジニアリングモデル(EM)の設計を行っています。以下の2枚の写真はBBMの写真です。


図3 (左)BBMのシンチレータアレイ  (右)BBMの組み上げ途中

 

 

硬X線偏光に関する参考文献